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毒婦/北原みのり

毒婦とは「人をだましたりおとしいれたりする無慈悲で性根の悪い女」という意味。木嶋が本当に毒婦なのかは不明

木嶋佳苗の裁判傍聴記。
筆者の北原みのり氏は、「アンアンのセックスできれいになれた?」などの著作を持つ著作家です。女性目線の性についてテーマにした著作を多く持ちます。

本書は、木嶋佳苗裁判の第2回裁判から判決までを傍聴し、女性の観点から木嶋早苗像と被害者像を浮き彫りにします。

木嶋早苗の裁判は、2007年から2009年にかけて発生した複数の殺人事件と詐欺、詐欺詐欺未遂が容疑です。
本事件の詳細については、Wikipediaに記載されていますので、ここでは割愛します。

木嶋早苗の事件は、テレビで大きな話題になりました。事件が話題になった理由は、木嶋早苗の派手な生活とその容姿です。木嶋早苗は、美人ではありません。また、スタイルが良いわけでもありません。写真で見る木嶋早苗は、さえない太めのおばさんでです。

男を虜にする容姿を持たない木嶋早苗が、なぜ多くの男性を騙すことができたのか。本書のテーマはこの一点につきると言って良いでしょう。

裁判の傍聴から筆者が見た木嶋佳苗の人物像は、以下の3点に集約できます。

魅力的な立ち振る舞い

「とても可愛い」
これは著者が初めて木嶋佳苗を見たときの印象です。

この印象は、著者だけがもった印象ではありません。木嶋佳苗の取材を行い、実際に木嶋佳苗を見た多くの記者が同じ印象を抱いています。本事件を取材し「別海から来た女」を執筆した佐野眞一氏もまったく同じ感想をラジオで発言していました。

筆者は、木嶋佳苗の次の行動にグッと引きつけられ、「もっと彼女を知りたい」と強い衝動に突き動かされます。

大きく胸の開いた薄いピンクのツインニットから除く肌の白さにハッとした。シミ一つない完璧な白、絹のような美肌だ。さらに机の上に重ねられた手は、ぷくぷくと丸く、指の関節はピンクで柔らかそう。触りたい、と思った。
(中略)
そして、何といっても。声だ。この日、佳苗が話す機会はなかったが、休廷中に弁護士や拘置所職員に話しかける声が聞こえてきた。それはあまりに優しく上品だった。
(中略)
なんだ、佳苗、魅力的じゃないの。感じがいいし。・・・やぱい。すでに佳苗に振り回されている。

容姿とは関係なく、人を引きつける不思議な魅力を木嶋佳苗は持っているのです。

当事者感覚の欠如

裁判中の木嶋佳苗は、深刻な表情をほとんど見せていません。検察に何を言われても表情を変えることなく、冷静な面持ちで裁判を受けています。
通常、被告は周囲に悪印象を与えないよう、地味な服装で裁判に臨みます。木嶋佳苗は、そうではありません。イヤでも自身に集まる視線を意識し、自信を良く見せるための努力を最大限に行うのです。

本裁判は、陪審制で行われています。刑を軽くしたいのであれば、浮ついた印象を与えてはいけません。木嶋佳苗本人だって、そんなことは百も承知のはずです。不思議ですが、木嶋佳苗とっては裁判に対する悪影響よりも、自分自身に対する好印象の方が重要なのです。

裁判中、佳苗からは切迫感、緊張感というものを感じなかった。最初、本人とわからなかったのも、どこか他人事な空気が漂っていたかもしれない。当事者であるのに、おどおどすることなく、終始顎をあげ無表情。

本書から得る木嶋佳苗の態度は傍聴席で、他人の裁判を見ているかの印象を受けてしまうのです。

生い立ちに対するコンプレックス

「(私たちは)生まれも育ちも千代田区神田です。23区内の人間が練炭で何かをする、という発想はないです。それは、北の国の人の発想ではないか」
この瞬間、佳苗は思いきり首をかしげ、口角を下げ、「はあ?」とバカにした笑みを一瞬浮かべ、突如凄い勢いでメモを取り始めた。あまりの表現に驚いた。初めてみた佳苗の生々しい表情だった。

これは、被害者の大出さんの兄の証言で木嶋佳苗が裁判中で唯一表情を歪めたシーンです。

木嶋佳苗は、都会での生活に強いあこがれを持っていたようです。つき合う男性には、自身を良家と思わせるような発言が多かったようです。
木嶋佳苗の自尊心は自分自身のステータスの高さにあるようです。裁判中に、表情ひとつ変えない態度は、こんなことで動揺しては恥ずかしいというプライドから来るのかもしれません。

木嶋は毒婦なのか?

本書のタイトルは「毒婦」です。
毒婦とは「人をだましたりおとしいれたりする無慈悲で性根の悪い女」という意味です。
「人をだましたりおとしいれたりする無慈悲な女」であることは、本書の記述から大変よくわかりました。

しかし、「性根の悪い女」が、どうしても腑に落ちないのです。木嶋早苗はまるで果物を搾るように、関係した男性から金銭をむしり取ります。そして搾りカスになった男性を果物のようにゴミ箱に捨てるのです。そこには殺人が持つ凄惨さがありません。

本書からは、木嶋佳苗の謝罪や反省の気持ちをくみ取ることはできませんでした。逆に「果物を搾って捨てたことがなぜ罪に問われるのか」というメッセージが聞こえてきます。
木嶋佳苗は、お金をだまし取る、人を殺すという行為に対して、悪いという認識を持っていないのかもしれません。だとするなら、木嶋早苗は人間の姿をした怪物です。

人間は多くの感情を持ちます。良いこと、悪いこと。楽しいこと、悲しいこと。嬉しいこと、許せないこと、、、これらの感情のひとつが完全に欠落したらわたしたちはどうなってしまうのでしょうか。

過去に毒婦と言われた犯罪者は、心の奥底に怒りや悲しみを持っています。この感情が「性根の悪い女」を作り出すのです。木嶋佳苗は怒りや悲しみを持っていたのでしょうか。この点が私には見えてこないのです。

目次

  • 第1章 100日裁判スタート
    • やばい。私、振り回されてる
    • だまされた男たち
    • セックスする男、しない男
    • 整形よりベンツ、ダイエットより料理教室
    • 佳苗が男にあげたもの
    • 佳苗ガールス
  • 第2章 佳苗が語る男たち
    • 「名器」自慢に法廷パニック
    • 本命の男たち
    • ふつふつと湧く耐えがたい嫌悪感
    • 光がない佳苗の瞳
    • 女性検事VS佳苗
    • ついに死刑求刑
  • 第3章 佳苗の足跡をたずねて
    • 初めての罪
    • 母との葛藤
    • 佳苗が見た東京
  • 第4章 毒婦
    • 判決
    • 毒婦