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教えずに学力を伸ばす家庭教師Tの話

先般、家庭教師のアルバイトをしている小学校の同級生T氏と話す機会がありました。

T氏は、家計のピンチを救うため5年ほど前から、そのアルバイトをはじめました。
最初の頃は、ほぼ毎日違う生徒を教えていましたが、本業が軌道に乗って忙しくなった現在は、週1回のペースで、2名の生徒を担当しています。
今は生活費を稼ぐのが目的ではなく、家庭教師という仕事が楽しいから続けています。

教え方がわからない

T氏が登録している家庭教師のサービスは、教材を購入すると家庭教師が中学受験までの期間、その教材に沿って教えるというものです。
その教材費は20数万円。決して安い買い物ではありません。

T氏は、家庭教師のアルバイトを始めるまでは、教育関係の仕事は一切したことがありませんでした。
家計を助けることばかり考えていたので、採用が決定した際は本当に困ってしまったのです。
「俺に中学生の勉強が教えられるのか?」

どうやって教えてよいのか皆目見当がつきません。
参考書を購入して自ら学習し、真剣に勉強を教えていましたが、どんどん、教え子たちの成績が下がっていきます。
教え子の親や会社からのプレッシャーに耐えきれなくなったT氏は開き直ります。

「今教えている子供たちの契約が終わったら、家庭教師は辞めてしまおう」

みるみる下がる成績に、勉強を教えるのが怖くなったT氏は、勉強を教えること自体もやめてしまいました。

「どうせ、もうやめるんだから」

家庭教師の時間を、教え子と話をしたり、遊んだりする時間にしてしまったのです。

成績が上がった

学生時代のT氏は、どちらかというとやんちゃな生徒でした。勉強はそこそこでしたが、スポーツや学校生活では大活躍の典型的なリーダータイプです。
教えている教え子の成績は、真ん中からちょっと下程度。中にはやんちゃな子もいます。
T氏の話す武勇伝は、さぞかし楽しかったことでしょう。

また、T氏の人生は波瀾万丈です。人生を振り返るとさまざまな反省点もあったようです。そんな人生の失敗談も包み隠さずに話しました。

スポーツ万能だったT氏は、野球をやっている子にはグラブのさばき方、バットの振り方を教え、陸上をやっている子にはスタートの基本などを教えました。

もちろん、勉強のことだってやりました。

「学校の先生は、何時間聞いてもタダだ。しかも、よりどりみどり。これを利用しない手はない」
「学校で先生に聞いたら、俺に説明してみろ。ちゃんと説明できなきゃ、わかったとは言えない」

するとどうでしょう、教えなくなって、ひと月たったところから、教え子たちの成績が上がり始めました。
なんと、教え子たちが自発的に勉強を始めたのです。

もともと、面倒見がよいT氏は、些細な教え子の変化も見逃さずに、浮かない表情のときは親身に話を聞き、テストで結果が出れば本人以上に喜びます。

T氏は、勉強を教えてはいませんでしたが、勉強以上に大切な「やる気」を教え子に植え付けていたのです。

真剣に勉強を教えていた頃は、何名かの教え子は高校受験に失敗しました。しかし、勉強を教えない現在は、高校受験に失敗した教え子は一人もいません。

子供たちは、なぜ勉強を始めたのか

家庭教師を依頼する子供の特徴は、学習の意欲が薄いということです。
学習意欲が高いのであれば、学習塾に行けば多くの問題が解決します。学習意識が薄いから、マンツーマンで勉強を教える必要があるのです。
学習意欲が薄い子供に大量の学習教材を与えても、恐怖感を与えるだけで、学習意欲はさらに低下します。

T氏が教えたことは、ひょっとしたら何もなかったのかもしれません。
しかし、教え子にとって、T氏といる時間は、他の何にも替えがたい楽しい時間だったはずです。

T氏はことあるごとに、次のように教え子に言っていました。
「俺がいなくなったら、勉強大変になるなぁ。次の家庭教師は厳しいぜ」
この台詞は、教え子の立場から見て半分程度はあたっていますが、もう半分は違うところにあります。

T氏が教え子に植え付けた心境の変化は次の3つでした。

    • T氏といる時間は貴重なので違う家庭教師に変えたくない
    • T氏が話す自身の昔話は、教え子にとって自分の未来を映す鏡になった
    • 教え子自身が本音で話せる大人ができた

学習は無理に押しつけたところで、決して良い結果をもたらしません。本人のやる気が一番なのです。
外山 滋比古氏の「思考の整理学」の冒頭にグライダーの話が登場します。

ところで、学校の生徒は、先生と教科書にひっぱられて学習する。自学自習ということばこそあるけども、独力で知識を得るのではない。いわばグライダーのようなものだ。自力では飛び上がることはできない。

グライダーをどうやって、自力飛行ができる飛行機に変身させるのか?
社会に出てもグライダーのままのひとをよく見かけます。グライダーを自力飛行させるのは容易ではありません。
なぜ、T氏の教え子が自発的に学習を始めたのか?私たち大人は、その理由を真剣に考える必要があります。

ちなみに、勉強を教えるのをやめてからは、テキストの学習教材は、一度も開封ていないそうです。
それを教えるのがT氏の役務なのに。今は、この学習教材を開かなくても、親御さんからクレームを受けることはないそうです。

カッコいい中年度(当社比)

自己満足度 ★★★★
部下の信頼度 ★★★★
顧客の信頼度 ★★★
家族の充実度 ★★★★
異性の羨望度 ★★★
総合カッコいい度 ★★★★

あなたの部下は、グライダーになっていませんか?
なぜ、自発的に仕事ができないのでしょうか?その理由を真剣に考える必要があります。

思考の整理学 (ちくま文庫)

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